ぐだぐだキューバ旅 〜食べ踊り喋り続けた日々〜

ガイドブックもネットもなし、19日間キューバをほっつき歩いたぐだぐだ日記

プラヤ・ヒロンでまったり

たぶんガイドブックにも大して掲載されていないような、小さな海辺の街、プラヤ・ヒロン。なぜここへ来たかったかと言えば、Silvio Rodríguezの曲に“Playa Girón”というのがあるからだ。彼の詞はメタファーを幾重にも織り込みながら、歴史を綴り、思想を謳う。一聴しただけではどう解釈して良いのかわからなかったりするのだが、大変詩的なのだ。

トリニダーの騒々しさから逃れ、たどり着いたプラヤ・ヒロン。あまりの居心地の良さに、最後は地元住民化。キューバの田舎は最高。

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プラヤ・ヒロンの観光はビーチくらいだが、ただ滞在するだけで満足できる街。

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トリニダーからプラヤ・ヒロンへ向かうバス。途中シエンフエゴスに停まる。隣に座って来た青年、バスの外にいる人たちに手を降っている。てっきり旅行者かと思いきやキューバ人で、手を振っているのは叔母の家族だという。あまりにナチュラルに英語を話すからキューバ人とは思えなかったと言うと、今はイギリスに住んでおり、休暇で帰省していたのだという。コスタリカにも3年間住んでいたという。

 

出身を訊かれ日本からだと言うと、彼アルトゥロは大喜びする。早速自己紹介し、日本のアニメが大大大好きだと話し始める。驚きの詳しさ。さらに武術もやっていたそうで、技の名前、日本の言葉もかなり知っている。私もちょっとだけ空手をやっていたが、アルトゥロの知識には舌を巻く。技と術の違いを質問され、とてもじゃないが答えられない。彼の説明にむしろこっちが納得させられる。日本に旅行したくてたまらないそうで、地名も知っており、饅頭が好きで、たこ焼きとお好み焼きを食べたいのだそうな。オムレツ作るのはプロ級だからこのくらい厚いお好み焼きを作ってやるぞと話すのが面白い。そして日本語を教えて欲しいとせがまれる。

 

またもやバスの中で異様に盛り上がる。くだらない話から、政治、社会保障、戦争、アメリカとの関係、日本の皇室制度や増税の話やら、何から何まで。彼は日本の全てに興味津津だ。私も久しぶりに英語で思う存分話せるので、喋りまくる。やはりスペイン語では意思疎通はできてもこのスピードでは話せないから、ストレスが溜まっていたのだ。キューバの将来について訊いてみる。資本主義になると思う?と尋ねると、家も車も所有できるようになったしキューバも随分変わった、これからもっと変わると思う、でも資本主義になるとは思えない、と答えていた。彼はFacebookで名前を探してよ、僕の名前はすごく長くて同じ人は絶対にいないから、と言いフルネームを教えてもらう。日本が好きな人に、これだけ立て続けに会う旅も珍しい。

 

バスを降りると、夕暮れのプラヤヒロンは一目惚れする街の雰囲気。やっと騒々しいトリニダーから脱出できた喜び。うるさくてくどい場所から静かな田舎町へ。

シエンフエゴスでバロディアから教えてもらったカサを、カードの裏に描かれた地図を頼りに探し、暗くなる前に見つけ出す。ベルが鳴らないのでドアを叩き思いっきり挨拶する。程なくカサの家族が出て来てくれたが、あいにく今日は空きがないとのことで、他のカサに電話をかけてくれる。バロディアの名前を出したおかげか、ずいぶん歓迎してくれる。本当にキューバ人々皆親切。バロディアが電話さえかけてくれたら部屋を空けておいたのに、と言ってくれるけれど、私もちゃんと旅の予定が決まっていた訳ではなかったし、と謝る。明日は空きがあるからこちらに泊まっていいという。そして今夜の夕食もここへ食べに来て、という。バロディアがここの食事は素晴らしいと言ってたから、と私が言ったので。

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マルセロのお母さんのカサ。キューバで泊まったカサの中で最も立派で、ホテルのようだった。25cuc。

連れて行ってもらったカサは、私がいきなり押しかけたカサのお母さんのカサで、とても立派な部屋。私は急な来客なので、部屋を整えてもらう間庭で待っていたら、中腰で撮影を続ける韓国人集団に遭遇。10人以上。カサのお母さんが彼らは何の断りもなしに庭に入って撮っている、と怒っている。(プロの撮影に見えたが、翌日撮影班だったことが判明) 

プラヤヒロンの人たちのアクセントは、気怠いトリニダーの話し方よりはるかに聞き取りやすく、調子にに乗って喋っていたら、スペイン語なかなかだねと言われ、私にとっては第3言語だからそれ程でもないんだけど、と弁解。

 

食事を食べに行く。バロディアの言っていた通り、すごく美味しく種類も豊富。イカの料理や芋の揚げたのなんかがとても気に入った。楽しく頂いて、プラヤヒロンのお勧めの場所も色々聞いて、娘さんに送ってもらいカサに戻る。プラヤヒロン近辺は見るべきところがありすぎて1か月は必要だよと言われる。明日は自転車を借りて8キロ先にあるというカレタ・ブエナ(Caleta Buena)という入江へ行くことにする。トリニダー出たら一気に元気が出てきた。

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マルセロのカサはシーフードの夕食が美味しい。量も相当。大満足。

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8時過ぎに朝食を頂く。庭を前にして素晴らしい朝食。キューバで初めて食べる、揚げたパンケーキみたいなものが美味しい。たっぷり出してくれ、感激。カゴの小鳥達のさえずりが美しい。4羽いたのが、3日前1羽抜け出して飛んでいってしまったらしい。カゴが曲がっているところは猫の仕業だそう。みんな名前がある。そして昨日擦り寄ってきた立派なハスキー犬はサーチャというらしい。キューバで見た中で最も立派で巨大な犬だった。

支払いは部屋代25cucに朝食5cuc。ホテル並みに綺麗な部屋だったので特に不満はない。バスルームも泊まった中で最もゴージャスだった。

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いきなり泊まったにも関わらず、ここの朝食も質が高かった。この後目玉焼きなども登場。

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キューバでは、小鳥と魚を飼っている割合が高いらしい。

ロディアの友人、マルセロのカサに移り、自転車で街の主な場所を案内してもらう。極めてこじんまりした小さな街なので、迷うことは絶対あり得ない。博物館の場所、ビーチ、両替所、Viazul オフィスなど。

そのまま自転車を借り、8キロ先のカレタ・ブエナ(Caleta Buena)まで行く。木陰があるので、トリニダーの時ほどきつくない。車もほとんど通らないのどかな道を、のんびりと漕ぐ。

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カレタ・ブエナへ行く間にも、小さなビーチがいくつかある。

カレタ・ブエナの駐車場に停めようとしていると、トリニダーの時と同様どこからともなく人が現れ、停めるならビーチの中だよ、日差しが強いから自転車のタイヤに良くないなどと言われ、自転車を持っていかれる。1日遊び食べ飲み放題のオールインクルーシブで、15cuc払って入江に入る。自転車駐車料は別に1cuc要求される。車は無料で駐車しているのに、こうやって取れるところからちびちび取ってくる。

 

韓国人撮影班がまたもやたくさんおり、何なのか尋ねると、ここで映画を撮影しているという。昨日の大群もきっと同じだったのだ。がっかりなことに、一番良いスポットを一日中韓国撮影団に占領されて使えない。キューバ人は映画と言っていたけれど、旅番組か何かじゃないかな。

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全財産を放置して、この入江で泳ぎまくる。

せっかく来たからには海で泳ぐ。パスポートと全財産の300cucが入った鞄をよく見える椅子に置き去りにし、時々確認する。透明度の高い入江で水温もちょうど良く気持ちいい。岩や珊瑚がゴツゴツして擦りむくのが難点だけれど。気分良く泳ぎ回り、そろそろ食事しようと放置しておいた鞄と服を取りに行った時、壊れていた椅子に足が挟まり、結構な怪我をする。出血が止まらず、痛いしもう泳げない。夜に約束していたサルサも無理だ。不注意だった。

 

昼食は食べ放題だがあんまり美味しくない。ただ野菜や果物を切っただけのものまで、何をどうしたらこうも不味くできるのか不思議だ。やはり一番美味しいのは料理上手なカサの食事だ。飲み物だけは種類豊富なので、ただ飲んでいる方がいい。ここのトイレは壊れかけており、バケツに水を溜め手動で流していた。

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昼食を食べてぼーっとする。

5時前にビーチを後にし、自転車で来た道を戻る。Viazul によって予約していこうかと思ったが既に閉まっているので、そのままカサに戻る。ちょうどカサの前に自転車タクシーが止まっており、マルセロが日本人だよ!と私に言う。

 

マルセロにカレタ・ブエナまで行ってきたと言うと、8キロもあるのに、とびっくりする。私にとってはたった8キロだ、すごく楽しんできたけど悪い知らせが2つあり、1つは足を怪我して今日はサルサに行けない、2つ目はカレタブエナで飲み食いし過ぎて今日は夕食が食べられそうにない、だって15cuc払ったんだから食べない訳にはいかないでしょ、と話す。

マルセロに到着した日本人に通訳してあげて、と頼まれるが、私のスペイン語はそんなにまともじゃないし、と返すと、タクシー運転手と一緒になって十分上手いからとおだてられる。夕食の話だけ通訳すると、一刻も早くシャワーを浴びたくて部屋に入る。その間に夕立。

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マルセロのカサは広く、ハンモックもあり、ぐだぐだするのに最適。

同宿となった日本人えりかさんが夕食を食べきれないからと、大食いの私が食べるのを手伝う。そして久しぶりの日本語の会話。えりかさんは8月から旅をしておりヨーロッパを回っていたそうで、ギリシャの旅の話など聞かせてもらう。サントリーニ島にあるアトランティスという、いつか訪れたい本屋があるのだが、彼女はそこへ行っていた。心底羨ましいなあ。写真をたくさん見せてもらい、私も彼女がこれから行くというメキシコのおすすめをし、見たいというガウディの建築やポルトガルの本屋などを見せる。お互い日本人女性のソロ旅行者、話が弾み楽しい夜だ。

マルセロが時々やって来て、明日の朝食をどうするかとか、どこへ行くつもりかなど聞いてくる。えりかさんは私の言語能力を羨ましがってくれるが、たぶんこれが旅で役立つ唯一の資本であり、それ以外は方向感覚には乏しいし、車には酔うし、暑さには弱いし、重い荷物を持つのは嫌だし、あまり旅向きの人間とは言えない。皆得意部分で弱点をカバーしているのだ。

 

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夕食は大量に出してくれるが朝食が少な過ぎる。えりかさんと頼んで卵を追加してもらう。昨日泊まったお母さんのカサの朝食が素晴らしかっただけに、少しがっかり。

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博物館の外にある碑には、祖国のために死んだ人々の名が刻まれる。

この日はまず博物館に向かう。プラヤヒロン1961417日にアメリカ軍の攻撃があったそうで、それがメインに展示されているが、この州の歴史やキューバ革命時の犠牲者の写真、遺品など、なかなか史料が充実していて興味深い。適度に客がおり、シエンフエゴスの博物館ほど静かではないが、冷房の効いた館内でのんびり見られる。やはり戦闘用語など分からない言葉が多いので、あとで調べようと思い写真を撮る。帰り際扉から出るときに貼り紙が目に入る。1cucだか2cucだか入場料が必要だったのだ。しかし誰も要求してこないし、誰一人支払っていた様子もない。だからそのまま出てしまった。

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キューバはどこへ行っても“PATRIA O MUERTE” 祖国か死か、選択が極端だな。田舎に行っても町外れに看板が立っていたりする。社会主義も楽じゃない。

次はプラヤ・ココ(Playa Coco)へ向かう。ここの景色はなかなか素晴らしい。人も少なくのんびりできる。昨日の傷を悪化させないように気を使いながら、足だけ海に入る。しばらくぼーっとビーチを歩き続ける。

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プラヤ・ココ。静かでのんびり。

お腹が空いたのでホテルへ行きアイスとヨーグルトを買うが、あり得ないほど高い。日本のリゾート地でもここまで高くはないはずだ。結局小さいの一つずつにするが、それでも2.5cucほど。アイスは美味しくはない。宿に持って帰って食べたヨーグルトも美味しくはなかった。カサのすぐ近くで、水とスナック少量を置いているスタンドを見つけ、この辺でよく食べられているらしい芋を揚げたものと、クッキーのようなものと、水を買う。芋スナックの値段を聞いた時20と言われてびっくりしたが、それはモネダの場合で、cucなら1cuc弱、全然安い。

 

宿に帰ってむしゃむしゃ食べていると、マルセロが友人のハバナの宿を探してくれる。ハバナは高く結局35cucと言われる。そこへ近所のカサのおじさんもやってきて、みんなでごちゃごちゃくだらないことを喋るぐだぐだタイム。おじさん、日本人がプラヤヒロンに来てくれるように紹介して、と言って笑いながら帰っていく。プラヤヒロンの人達のアクセントは本当に聞き取りやすく、なんだかもう日本語で会話しているような気分になってくる。3日で地元民並みの馴染み具合だ。

ハンモックに寝そべってのんびりする。こういう時間が欠かせない。トリニダーと違い静かだが、街のざわめきはあり、心底落ち着く。

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トリニダーは日本の田舎町のような感覚。

夕食はマルセロが、こーんなでかい魚出すから楽しみにしていて、と言った通り、とてつもなく大きなサイズの魚が登場し、えりかさんと笑い転げる。格闘しながら魚を食べる。美味しいが最後の方はさすがに飽きてくる。えりかさんは少食なので私がその他のおかず大部分を一人で平らげてしまう。私がいかによく食べるかを、マルセロがやってくる人ごとに話すので、大食い日本人の話がそこら辺に広まってしまった。毎日動き続けて常に空腹だったのはもちろんだが、マルセロが電話でわざわざ食材を買ってくれているのを聞いてしまったからでもある。キューバの田舎は本当に物がない。トリニダーのカサでも言われたが、キューバでは食材を手に入れるのが大変なのだ。わざわざ手に入れてくれた食材を食べ切らないのは申し訳ない気がした。

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夕食の巨大な魚。

明日の予定をえりかさんと語る。彼女はシエンフエゴスへ行く、そしてマルセロからバロディアのカサを紹介してもらったというので、バロディアへの手紙を書いて託す。トリニダーでの年越しや、紹介してもらったプラヤヒロンのカサに泊まっていること、そして日本人の友人がシエンフエゴスへ行くので、彼女のカサが空いてなかったらラウルのカサを安く紹介してあげてくれないかな、と書いておく。私は明日の昼過ぎ、ハバナへ向かう。

 

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朝起きると水が出ない。マルセロに言うと、家の奥の機械をごちゃごちゃいじくって、少しずつ出るようになる。朝食は、昨日の夜お願いを聞いてもらえるかなあ?と、もっとたくさん欲しいとリクエストしておいたので、フルーツもてんこ盛りでケーキ付き。えりかさんを呼ぶが、並んだ朝食を見、今日はいらないかなと言うので、私が2人分食べる。

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マルセロのカサでの朝食。

えりかさん荷物をカサに預けシュノーケリングに行きたいそうで、最後の通訳をして彼女を見送る。カサの支払いは部屋代2泊が50cuc、朝食2食が10cuc、夕食2食が24cuc、自転車15cuc。ここの水はトリニダー同様一本1cucだった。

 

マルセロに家族はいないかと聞くと、奥さんは病院に行っているそうで娘さんは不在らしく息子を呼んできてくれ、一緒に写真を撮る。バロディアと同じように、ハバナには騙そうとする人がいっぱいいるから十分気をつけて、と注意してくれる。日本でうちのカサを紹介してね、来年また来てね、と言われ名残惜しく別れる。通り道で昨日マルセロのうちに遊びに来ていた気のいいおじちゃんのカサがあり、挨拶してこれからハバナへ戻るのだと言うと、ここでもカサカードをもらい、うちは15cucだから日本人にぜひ宣伝してよ~とまた頼まれる。こんな感じのおじちゃん日本にもいっぱいいる。プラヤヒロンは本当に外国ということを忘れる。

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マルセロと家族。このカサの居心地は文句なし。

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マルセロの友人のおじちゃんがやっているカサ。15cucだそう。

Viazulに到着するとオフィスが閉まっていたが、すぐ昨日の女性がやって来て開けてくれた。外で待っていたカップルはシエンフエゴスへ行くというが、ここにはチケットを発券する機械がないとかで、手書きのヨレヨレの紙っぺらをもらっていた。何でもゆっくりなキューバ式受付を待ちながら女性の方と話す。デンマークから来て17日間キューバを旅行しているそうで、プラヤヒロンでは2泊カサに宿泊していたそう。デンマークもこの時期とても寒いと言い、暑いねえ、蚊が多いねえ、と共感。彼女がいてくれて本当に助かった、というのもバスチケットを発券してもらう時オフィスにお釣りがなく、彼女に20cuc札5cuc札に両替してもらい、手持ちの小銭をかき集めてぎりぎり13cuc払えたのだ。(この時両替所は閉まっていた)キューバではハバナ以外、ほぼ常にお釣りが無いと言われるのが常だった。

ここのViazul オフィスは唯一、英語が完全に通じた。そう言えばビーチで耳をそば立てていても、言語から判断してヨーロッパからの旅行者が多かった感じ。

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Viazul のバスを待つ。Transgaviota(かもめ交通)という名前、そのまま日本にありそう。

バスを待つ間ホテルをぶらつきトイレに入ると、誰かが下から紙と言って差し出してくれる。こういうところがキューバの田舎っぽくて好きだ。

プラヤ・ヒロン、さようなら。