ぐだぐだキューバ旅 〜食べ踊り喋り続けた日々〜

ガイドブックもネットもなし、19日間キューバをほっつき歩いたぐだぐだ日記

再びハバナへ

プラヤ・ヒロンに後ろ髪を引かれつつ向かったハバナ。最初に2泊した時はハバナの郊外だったし、カサで喋っていただけで全く観光はしていない。気楽な田舎で平和ボケしたのか、大都市ハバナでは常に緊張し、とにかく疲れた。そして印象もあまり良くない。キューバの田舎の街を懐かしく思い出していた。

f:id:musicafe-may:20190119172454j:plain

カピトリオ(国会議事堂)は修理中の模様。

1/6

バスに乗り込み、途中また道の駅的場所で休憩を挟み、ハバナへ。道の駅では必ず全員降車しなくてはならない。ぐだぐだとバスに留まっていると、腕を掴まれて無理矢理降ろされる。

 

ハバナはやはり都会だ。交通量も人間の数も全く違う。バスターミナルに到着すると、予想通り大量のタクシーの客引き。ここからトラブルになる。

声をかけてきた個人タクシーを使ったのがそもそもまずかったのだが、狙っていた安めのホステルにたどり着いた後、タクシー代を巡って大口論となる。私は5cucだと思い込んでいたが、それはプラヤヒロンのカサで何度もそう聞かされていたからだ。最初に客引きに料金を尋ねた時、5(cinco)と言われたのか15(quince)と言われたのか、もはや確認のしようがない。スペイン語でこの2つはかなり違うのだが、私もちゃんと聞いていなかったし、それが何よりいけなかった。

 

向こうもふっかけて来たのだが、私も相当に狡い手を使った。ホステルの玄関で大喧嘩となり、もはや収拾がつかなくなったので、すかさずホステルのお母さんに、私はスペイン語がわからない旅行者だからこの男は私からお金を騙し取ろうとしているのだ、と英語で訴える。タクシー客引きの方は、こいつはさっきまでパーフェクトなスペイン語を話してたんだ、嘘ばっか言いやがって、とスペイン語でまくし立てる。(事実まあまあ楽しくずっとスペイン語喋っていた) 警察呼びたければ呼べばいい、と私。警察なんか来ないぞ、と相手。お互い譲らず埒が明かなくなり、相手が10cucに折れたので、お金を押し付け、大声で、かつスペイン語で、お前なんか大っ嫌いだ、お前のことをネットに書きまくってやる、と言い放った。相手は、ほらみろ、こいつはスペイン語喋るじゃないか、と言って立ち去った。この口論は通り全体に聞こえるほど派手になってしまった。

 

シエンフエゴスでもプラヤヒロンでも、あれだけハバナでは気をつけろと言われていたのだ、もっともっと注意すべきだった。くだらないことでエネルギーを使う羽目になって情けなくなる。

f:id:musicafe-may:20190119160243j:plain

最後に3泊したハバナ旧市街にあるカサ。ヨーロッパからの女性旅行者が多かった。

ホステルに入ってすぐ、日本人に出くわした。この大喧嘩を聞いていたらしい、そりゃあ聞こえてしまっただろう。りほさんという彼女は先程到着したばかりで、7ヶ月の旅の途中だという。彼女は4人部屋、私は2人部屋(1泊8cuc)に滞在。

さっそく彼女と一緒に夜の街へ歩き出し、ライトアップされた灯台など眺める。綺麗だが、騒音はうるさいし、空気は悪いし、人は多いし、田舎ばかりうろついていた私の感覚は完全に平和ボケしてしまっている。

 

りほさんと夕食を食べ、彼女の旅の話を聞かせてもらう。なんと彼女はサンティアゴ巡礼をやったという。いつかやってみたいことの一つだ。興味津々で話を聞かせてもらう。旅が楽しくてもう日本に戻れそうにないと言う。そうだろうなあ。

帰り道水を買って宿に戻ろうとするが、どうしても場所が特定できない。2人でふらふら歩き回り、番地を探してなんとか辿り着く。私1人だったらたぶん辿り着けていない。

f:id:musicafe-may:20190119160408j:plain

ハバナの夜。灯台と要塞がライトに照らされている。

夜遅く、オランダからの女性が到着。私の部屋は彼女とのシェアルームとなり、1泊の料金が安くなる。彼女は学士課程を修了したばかりで、修士に入るまで半年の旅をするという。

 

1/7

朝食を食べていると他の宿泊者とも合流。映画業界で働いているというフランス人女性二人組。3週間旅行して帰国目前という。ハバナの革命博物館の感想を尋ねたら、大したプロパガンダだ、と言っていた。

f:id:musicafe-may:20190119161328j:plain

革命博物館の中庭。

まず革命博物館へ行く。これまで行った小さな街の博物館と違い、3階までびっしり資料が展示されており、全て読んでいたら4時間もかかった。部屋ごとにテーマが分かれており、ほとんどが英語との併記。これまで見てきた博物館は、その街での革命の歴史や犠牲者の写真などが中心だったが、ここでは全てまとめて展示され、博物館シリーズ完結編といった気分になる。自分の理解が合っていたか答え合わせだ。

相変わらず社会主義らしく、祖国の素晴らしさを称えまくり、敵の残酷さを強調して展示しているので、その辺は差っ引いて事実だけ読み取っていく。キューバ革命時、カストロゲバラメキシコから密航したヨットも、巨大なガラスケースの中に展示されており、そこだけいやに警備が厳重だった。

f:id:musicafe-may:20190119161432j:plain

キューバ詩人Nicolás Guillénによる、ゲバラを称える詩。偶然古本屋で気に入って買った本が彼の詩集だった。

昨夜見た海岸沿いから再び要塞を見物し、公園の近くのアイス売りからティラミスアイスを買う。1.5cuc。これは美味しかった。そしてこれまでの小さな街だとお釣りがないと断られ続けてきた20cuc札でも、難なくお釣りが貰えた。

f:id:musicafe-may:20190119161932j:plain

要塞が見える。気持ち良さそうに見えるが、ハバナはとにかく空気が悪い。

オビスポ通りへ向かう。目的は本屋。旅の最後はとにかく本屋だ。まず入り口に青空古本市が並ぶ。品定め。最初はガルシア・マルケスの本を物色していると、店主のおばさんが初版本だと言う。キューバ料理本も見せてくれる。あまり興味を惹かれるものがないので隣の本屋へ。

 

店主が本の説明を始めるので、ホセ・マルティの本を尋ねてみる。「黄金時代」の原書を見せてくれる。これは日本語で読んだと言うと、おじさん嬉しそう。ホセ・マルティの詩集はあるかと尋ねると、次から次へと見せてくれる。英訳の付いた本もありなかなか魅力的なのだが、日本へ持って帰るにはちょっと重すぎるんだよなあ、とおじさんに言う。それによく考えたら、ホセ・マルティのような有名な詩人の本は、ネットで簡単に買えるだろう。他にはどんな詩人がキューバで有名なのか訊くと、これまた大量に本を取って見せてくれる。好奇心から、全然知らないのを買ってみようかなあという気分になる。店主から渡されたNicolás Guillénという詩人の本をめくって2ページほど読むと、シンプルで読みやすく気に入った。しかも朗読CD付き。これを買うことにすると言うと、15cucと書いてあるところ10cucでいいと言う。読めそう?と聞かれこれはたぶん読めそう、きっと好きだと思う、と返す。

f:id:musicafe-may:20190119162626j:plain

立ち並ぶ古本屋。掘り出し物に巡り会えそうな、本好きにはたまらない場所。

本を物色しながら本好きの人と会話するのは至福のひととき。他にも何軒もの本屋がオビスポ通り沿いにあり、片っ端から覗いていく。いくつかそそられる本があったが鞄に入りきらないので買うのはやめる。通りでマンゴーのアイスを食べる。る。1.25cuc。他の街に比べれば、ハバナだけは物が豊富だった。しかし首都であることを考えると、ガラ空きの棚が並ぶスーパーマーケットなど、ちょっとびっくりだ。

 

宿の部屋で、今日博物館で撮影した、ゲバラを称える詩を見返していてびっくりした。これを書いたのが、偶然古本屋で購入したNicolás Guillénだったのだ。この喜びは誰にも理解されないだろうが、こういう嬉しさは格別だ。

f:id:musicafe-may:20190119163531j:plain

3泊したHostel Maritzaには10歳になるカラメロという猫がおり、人懐こく膝に乗ってくる。宿の椅子に特等席を持っている模様

1/8

朝食をたくさん食べ、猫のカラメロが膝に乗って来たのでそのままぐだぐだする。もう10歳なのだそうだが毛並みつやつや。最後の日なのに特にやりたいことが思いつかない。

f:id:musicafe-may:20190119164108j:plain

海岸通りの道。日陰はほとんどなし。

新市街の方へ海岸沿いに歩く。楽器を吹いている人、魚釣りをする地元の人、ジョギングする人くらいであまり混んでいない。

f:id:musicafe-may:20190119164244j:plain

新市街の公園。平日でもあり、ほとんど人はいない。

途中で左折し、革命広場の方へ向かう通りを公園沿いに歩く。新市街は道路も清潔で歩き易い。時々ベンチで休憩しながらホセ・マルティの博物館へ辿り着く。

f:id:musicafe-may:20190119164615j:plain

ハバナで有名な場所。

f:id:musicafe-may:20190119164734j:plain

革命広場の隣にある。旧市街とはだいぶ雰囲気が違う。

上へ登ると市内が見渡せ展望が良い。中は4cucほどらしく、見る価値がありますよ、と係の女性に言われるが、博物館で1日が終わりそうなので入館せずに離れる。(しかし入っておけば良かったと、後悔する)

 

しばしぼーっとしてから市内を一周するように旧市街の方へ歩く。途中アイスクリームを買うとモネダ払いの地元の人向け。たった0.25cuc しかし美味しくなく、お腹が痛くなる。

f:id:musicafe-may:20190119165030j:plain

目的もなくハバナを街歩き。

f:id:musicafe-may:20190119165139j:plain

f:id:musicafe-may:20190119165224j:plain

行き当たりばったりに歩き過ぎ、ここがどこだったかも思い出せない。

旧市街へ戻ると革命博物館の前の広場に人が集まっており、キューバ国旗や、26 JULIO(カストロの率いた革命組織の名)の旗を掲げる人で溢れかえっている。お祭りかと尋ねるとそうではなく警察のイベントらしい。やがて演説のようなものが始まりViva Cubaの叫び声。学校の子供達も強制参加らしく、大勢集まっていた。警察車両に続く車には「自由への行進」の文字。社会主義国の風景を見た気がした。1時間も経たず終了すると、交通規制されていたらしいバスが一気に連なってやってきた。どこへ行ってもPATRIA O MUERTEの文字が現れるキューバ。資本主義も課題は山積みだが、社会主義も楽じゃない。

f:id:musicafe-may:20190119165752j:plain

革命博物館前で警察車両や学校の生徒達、旗を掲げる人々が集まり、キューバを称えていた。

帰り道音楽隊に捕まり、強制的に聞かされ、強制的にサルサを踊らされ、写真を撮れと言われ、そしてお金を要求される。札はないのかと問い詰められ、明日日本に帰るので本当にもうこれしかお金を持っていないのだと弁解する。ハバナは好きになれない。

f:id:musicafe-may:20190119170112j:plain

ハバナスペイン語を発するとろくな目に遭わない。

ホステルに戻り、明日のタクシーの値段と時間を確認してから夕食へ。お腹が空いている人がいないので、1人で最後の夕食を食べる。ロブスター、エビ、魚のディッシュを頼む。ロブスターは品切れなので、他のものを多めにしてくれるという。それでわざわざ15cucのメニューにしたが、さして大盛りにはなっていない。高すぎると思いながら食べると会計はサービス料まで自動的に加算され、16.5cuc。海を見ながら食事できたのは良いが、田舎のカサでの食事が恋しくなった。こちらの好きなものを聞いて山のようにたくさん作ってくれ、完食すると喜んでくれ、そして楽しかった。

もし次にキューバへ来ることがあるなら、居心地の良いシエンフエゴスとプラヤヒロンに長居する。そして行かなかった田舎の街々をもっと訪ねてみたい。

 

Hostel Maritzaでは3泊ともオランダ人女性と2人部屋。1泊8cuc。朝食は1食3cucハバナ旧市街では相当安めだと思う。洗濯物は毎晩高いところに干して乾かしてもらった。

f:id:musicafe-may:20190119172227j:plain

夕暮れのハバナ

1/9

朝食を食べタクシーが来るまでのんびりする。4月まで旅を続けるというりほさんに、物資をあげる。キューバでは本以外に欲しいものは皆無だったため、バックパックは驚きの軽さに。(たぶん3kgくらい)  

 

ホステルで予約してくれた公認タクシーに乗る。この間の一件もあるので、一言も喋らず空港まで連れて行ってもらう。25cuc

 

空港での逆両替はかなり不自由。円にしたいと言うと、ここには一万円札しかないからできないと言う。仕方ないのでメキシコペソにするが、これも500ペソ札しかないとのことで、13cuc戻される。cucなんて持ち歩いてもキューバ以外どこでも両替できないので、最後にユーロで試みる。10ユーロ札と残りはやはりcucで小銭を返される。250円程無駄になったが、これ以上どうにもならないので諦める。欲しい土産は1つもなかったが、ジャムかなんか買っておけば良かった。

 

長蛇の列に45分ほど並びチケットを手に入れ、メキシコシティへ。深夜の乗り継ぎまで6時間以上。やることがないが、やっとWiFiに恵まれるのでメールなどチェックする。お腹が空かないので、小銭で最低限のスナックだけ買い、ペソは日本に持ち帰って両替することにする。両替はとにかく面倒くさく、しかもする度に目減りし、日本で全て円に戻したら最終的に半分近くに減ってしまった。世界通貨作ってくれないかと思うのは私だけではあるまい。

 

早朝の成田の税関で麻薬所持をしつこく尋ねらる。メキシコ経由したせいか、キューバ3週間旅行にしてはあまりにも荷物が少ないせいか、職員が暇だったからか…。トイレットペーパーまで厳重に調べられる。

 

キューバはどう変化していくのだろう。社会主義の生活を覗き見たいという好奇心は満足したが、この国がどういう方向へ進むのか、キューバ人も恐らくわからないだろうし、そもそも行き詰まりつつある資本主義と、何かと不自由の多い社会主義を、どう比較して良いのかわからない。同じ場所を二度旅したことはないけれど、もしこれから大変化を経験していく国ならば、すっかり変わり果てた時、もう一度覗きに行ってみたい。ドラマチックなキューバ叙事詩は、一つのスタンザが完結する時期なのかもしれない。